シングルシートカバー製作記・製品成型編。

前回までで、型は完成。

いよいよ製品を作っていきます。

まず、出来上がった型に離型処理をしていきます。

これはマスターと同じ手順。

ヒーターで型を温めながら、薄くケムリースを延ばし、拭き取る。

型全体が「ニュルッ」とするまで、繰り返す。

この上にブルーワックスを塗り、拭き取る。

ケムリースの層の上に、わざわざそれより離型性の落ちるブルーワックスを塗るのは、

FRPは離型性が良すぎても、トラブルの元になるからです。

何事も、適度が肝心。

次に、型の耳の部分にマスキングテープを貼っていきます。

これは、余分な所までゲルコートや樹脂が付かないようにする為。

これをしないで成型した後、製品を型から外そうとすると、「ヒゲ」と言うものが入りやすくなります。

この「ヒゲ」は、FRP繊維が樹脂で型のふちに付いたまま外すと、

繊維が型から外れず残り、製品に「ヒゲ」のような形のゲルコートの捲れが出来てしまう事です。

これを防ぐ為に、ふちにマスキングをし、

型から外す際はマスキングを浮かせてマスキングごと外します。

これで「ヒゲ」は入りません。

ここまでで下処理は完了。

いよいよ製品を貼っていきます。

まず型にゲルコートを塗ります。

このゲルコートは型用と同様、硬化剤を入れるのですが、通常促進剤を必要としません。

ですが、作業は真冬の外。条件が悪すぎます。

この為、極少量の促進剤を混ぜて使います。

3つを入れて良く混ぜ、型にしっかり満遍なく塗ります。



本当は塗装用のエアーブラシが欲しいところですが、一般家庭にあるわけがありません。

このとき注意する事は、均一に塗る事。

FRPのゲルコートで多いトラブルは、「縮み」と「歪み」です。

この縮みとは、製品のゲルコートの表面が溶けたゴムのように縮んでしまう事です。

最初のゲルコートが薄い上にゲルコートを二度塗りするとおきます。

また、最初が乾かないうちに、上から最初より硬化スピードの速いゲルコートを塗ってもおきます。

歪みとは、製品のゲルコートが凹んでしまう事です。

ゲルコートが角など一箇所に多く乗って固まった場合、

硬化時の発熱により、歪みが起きてしまいます。

同様に、樹脂が多くてもおきます。

一般的なゲルコートの場合、含まれる顔料の具合で、

縮みは黒、歪みは白のゲルコートがおきやすい傾向にあります。

今回使うのは、黒。気をつけるのは、縮みです。

歪みと似たような症状で、「ヒケ」というものもあります。

これは型の離型性が高すぎ、成型時に型から」ゲルコートが浮いてしまい、

固まる際に変形してしまうのです。

これを防ぐには、型の離型性を落としてやる必要があります。

全体ではなく、ヒケがおきる部分に、離型性の落ちるワックスを塗るか、

コンパウンドの含まれたサンポリーなどを塗り、膜を極一皮剥いてやる等の対処方法があります。

サンポリーを使うのは、かなりの経験が必要なので、あまりお薦め出来ません。

さて、ゲルコートを塗ったら半日から一日乾燥させます。

次に、この上にガラスマットを貼っていきます。

使うのは#450マット。これを2プライ(2枚重ね)。

以前にも書きましたが、これは車のバンパー等と同じ厚さ。

通常バイクでは#450マットと薄手のガラスクロスですから、丈夫です。

でも、今回の#450マット、ちょっと薄い気がします。

#450×2=#900というより、#400×2=#800に近い感覚です。

さて、このマットを手で裂き、型に均一に敷いていきます。

これを樹脂で固めます。

ここで、ワンポイント。

通常、この時期のFRP成型は条件が悪く、作りにくいです。

樹脂も寒さで硬くなりがちです。

これを使いやすくするには、柔らかくしてやる必要があります。

その方が、マットへの浸透性が良いですから。

やり方としては、スチレンモノマーやアセトンを混ぜてのばす方法がありますが、

これは硬化不良がおきやすい為、お薦め出来ません。

良い方法は、バケツ等にお湯を溜め、樹脂を入れ物ごと中に入れて温める方法です。

これだと硬化不良もおきません。

ですが、温める事によって硬化スピードが速まってしまう為、注意が必要です。

こちらも通常促進剤は要りませんが、極少量加えます。

成型時に樹脂が固まったら、注意が必要です。

樹脂は、硬化時に180℃近い高温似なる為、近くに可燃物があると大変危険です。

作業中に樹脂が固まった場合、容器ごと水に入れましょう。

また逆に硬化スピードが遅すぎるのも問題です。

せっかく貼ったマットが剥がれたり、樹脂が流れたりしてまともな製品になりません。

では、作業の続きを。

#450マットを敷き、樹脂を塗り、ローラーで気泡を脱泡していきます。

さらにもう一枚マット・樹脂を加え、脱泡。

ローラーの後、スパイラルと言う、たわし状のローラーで細かな気泡を抜き、

鉄ちんローラーと言う物で、型の角に溜まった樹脂をのばします。

樹脂は出来るだけ少ない方が、硬いしっかりした物になります。

ですが、少ない樹脂で成型するには、ある程度の経験が必要です。

FRPのアフターパーツで、やたらに重かったり、マットの目が丸まっているようなら、

良い製品とは言えません。

目が丸まってるのは樹脂が多いからで、技術の無い所ほど樹脂を多くしがちです。

細かい気泡まで抜いたら、一日乾燥。



型から外します。

マスキングを浮かせ、そこからエアーを放り込めば簡単に外れるのですが、

さすがに数馬力ものコンプレッサーは持っていません。

仕方なく、プラスチックのヘラを隙間に入れ、時間を掛けて外します。







本当は、この方法だと製品・型に傷がついてしまうので、避けたい所です。

この作業で付いてしまった傷は、最終工程で取ります。

これで、成型作業は終了。

ですが、本当に大変なのは、これから。

続きは、フィッティング編で。


・・・長いし、解り辛い?

弱音吐いちゃ、駄目ですよ!

ちゃんと付いて来て~!